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♯店主私物


  放蕩書店・店主である宗沢香音が愛読してやまない本を紹介する特集です。どれも生きるために必要だった本ばかり。一人の救いが誰かの希望につながることを信じて隠れた名著を紹介します。※お取り扱い本は全て新刊です。



重力と恩寵/シモーヌ・ヴェイユ


重力と恩寵/シモーヌ・ヴェイユ
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家出したときにポスティングのバイトをやって身銭を稼いでいたのですが、休憩時間に公園で開いていたのが『重力と恩寵』でした。困難の中にいるとき、自分の体はだんだん重くなっていきますが、同時に神聖にもなっていく。

「ボロボロになってく 神様になってく君が透明な銃 放つ自由」

TOKYO BLACK HOLE /大森靖子

ダメなところで生まれて頑張ってもその先ぜんぜん辛くて、頑張ってやっと人並み以下の人生しか手に入らなかったな。狭い部屋で思うんですけれど、辛かったことを対価にも代償にもせず、かわいそうの文脈で自分を語るのを我慢して、ストイックに生きた分だけ、向こうで普通に笑っている人の持っている苦労とか辛さとか眼に見えるようになったので、もっと分厚くて神聖で、気迫のある、天使の羽が生えた、ただの人間になっていきたい。ヴェイユを読むと、そう勇気づけられます。

・うわさの壁/李清俊


うわさの壁/李清俊
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李清俊(イ・チョンジュン)。

私の推し作家である。

 韓国風土の中を生きる人々を題材にした作品群では、社会派のエンタメ作品でありながら、国も人種も超えるような人間問題を扱う。私は遠藤周作をこよなく愛らしい書き手と捉えているが、それは単に書ける作家だからではなくて、この作家のやることなすこと、手明かししながら読めるからで、つまるところ、書き手として非常に人間くさいのだ。 

 李清俊は韓国の遠藤周作と紹介するのがわかりやすいだろう。言論統制を受けた小説家、ハンセン病棟に赴任した男、息子を拉致された母親などを扱い、克服できない不条理の鉱山から苦悩を掘り出し、丁寧に眺め、人間存在の光る瞬間を確実に捉えて描く。作品は個人的な体験を描いたものでありながら、読み手の心の弱い部分を強く揺さぶって離さない。

 『うわさの壁』は、自分の仕事に意義を見出せない文芸誌編集者が、ある日突然現れた謎の男に取り憑かれるように呑み込まれていく物語である。男について語られる噂は霧のように広がり、真実に近づくほど、主人公は「人が語らずにいられないもの」に触れてしまう。次第に自己陳述の強迫を持つ男を自分の分身のようにも捉えていく。当時の韓国社会の空気を背景に、どんな目にあっても書き続ける作家の衝動を描いた一作である。

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