渡辺一夫評論選 狂気について/渡辺一夫
渡辺一夫評論選 狂気について/渡辺一夫
大江健三郎の師匠にあたる人物のエッセイです。
このかたはフランスのラブレーという作家について、戦中でも「自分の研究には意味がある」と思い、論文を書き続けました。食べるものの住むところも貧しくなって、周囲からの目がはばかれても夜でも勉強がしたいと誰にもバレないようにこっそり灯りをつけて本を読み続けた批評家です。不安に際して世界に甘んじたりはしなかった。感情の赴くままに暴れたりするのは、狂気に足らず、そういう習慣的な反復こそ狂気じみているに違いない。
話は変わりますが、先日、文化庁より「令和7年度文字・活字文化資源活用推進事業の募集」がありました。援助を受ければ書店などの事業は400万円の助成金をもらえるそうです。独立系書店(と呼ばれる店舗)はこちらの制度を利用すれば、かなり経営の助けになるかもしれません。一方で独立系書店は戦争反対や共産系の思想を持った店舗が多くあります(左翼というより中道な気もしますが世の中が世の中なので)。 この支援事業には審査があります。都合のいい思想の店舗には援助金を出すが、そうではない店舗への援助は援助しない。そのことを鑑みると、活字促進をお題目とした新自由主義による軍事介入なのではないでしょうか?
戦争の足跡を確実に感じつつ、また自分がデモや戦争反対運動に協賛しないのも事実です。書店としてはノンポリに見えるかもしれませんね。
しかしながら、自分が文章を書いたり、本を売ったり、まだ死んでないだけで戦争反対も含まれているしデモである、私という人間が存在して活動し続けるかぎり暴力に対する反抗である。ブッ刺しである、と思っています。数に成り下がらないこと。俺は俺で火をつけているということを、狂気じみた光景へ引き上げてくれるエッセイ集です。
暴力に対する嫌悪,人間の機械化に対する嫌悪,そして人間に対する愛を心に抱いて生きること――ユマニスムを生涯の思想とした著者(一九〇一―七五)の静かな祈願のことばは,読む者の胸に深い感動を呼び覚ます.真の知性の眼をもって人間性の根源を洞察するエッセイ・評論二十三篇を収録.(解題 清水 徹/解説 大江健三郎)
